火曜日の沈黙

 

ちまたで不思議な奇病がはやっている。
その病気は毎日だいたい一音と半音ずつ聞こえなくなっていく。
そしてすべての音が聞こえなくなった時、バタンと死んでしまう。

その病気にまだ名称はない。
だけど基本的に火曜日に起こる病気のため、ちまたでは「火曜日の沈黙」と呼ばれていた。

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ある日、僕はいつも通りに目覚めた。
そしていつも通りに支度して、母が作ったおいしい朝食があるキッチンへ向かう。
「お…よう、あかる。」
母が挨拶した。
だけど一部聞き取れぬ言葉がした。

父が朝のニュースを見てる。
その声も時々聞き取れぬ箇所があった。

(おかしいな…、耳は昨日掃除したばっかりなのに。)

少し不便だが、今週は大事なテストがある。
学校など休めば今後に響く。どーせ今日は授業などでききとるものなどない。

僕は家を後にした。

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「おはよ…。あ…る君!」
隣の席の竹田 美音子。明るくて誰にもひとなつっこい性格だ。
どうやら噂では僕に気があるらしい。

「おはよう、竹田。」
「今日のテス…、ちょっとドキドキだよね!」
「あ、ああ。」
「もう、なんでいつも火野君はそ…なそっけのない返事ばっかしする…?だから友達があんま…いな…。」

少しイラついた。
たしかに周りに人が居なきゃ死んでしまうような、竹田には俺の気持ちはわからないだろうな。

「余計なお世話だ。」
「ゴ、ゴメ…。」

胸がムカムカする。
久しぶりにこんな感情を味わった。

チャイムがなり、先生が入ってきた。
また所々ききとれぬ説明をしてテストが始まった。

文字だらけのテストというのはいいものだ。
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翌日、また目が覚めた。
いつもどおり、以下同文。

「…はよ…、あか…」
あれ、おかしいぞ?
昨日以上に母の声がききとれない。
テレビも昨日以上に意味不明な文章になっていた。

だけど今日もテストだ。
病院いって欠席になるなんて失態だ。
そう思って僕は家を後にする。

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毎日毎日、不気味に音が消えていく。
ド、ド#からレ、レ#からミ、ミ#からファ、ファ#からと。
そして土曜日また目が覚めると音が消えている。

これは噂の「火曜日の沈黙」というものではないか?
不安がよぎる。

キッチンへむかう。

「…………、あ……」
母の会話が殆ど聞こえない。

テレビの音も不便にもほどがあるほど。

病院へいくことにした。

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「ええ、これは火曜日の沈黙ですね。
どうしてこんなになるまでほっといたんですか!」

美人と評判の近所の耳鼻科の先生を訪ねた。
彼女はスカンスカンに怒っていた。
メモ用紙に書かれた字が力強くてきたないほどに。

母は心配そうに先生に質問した。
おそらく定番の決まり文句、「息子は治るんでしょうか?」だろう。

だけど先生がメモ用紙に書いた言葉は

「なおらない、なにが原因かわからない、火曜日がくるころには死んでしまう。」
と書かれていた。

火野 あかる、14歳にして人生一巻の終わりというわけですか?

母は泣きながら病院をでた。
自分が死ぬ訳じゃない、なのになんでそんなに泣くのだろう。

僕はまだ14で、自分の死より他人の死を悲しむとか、自分を犠牲にしてまでも他人を助けたいなどのステキな感情などを味わった事がなかった。

たしかに悲しいことだがなぜそこまで悲しめるのだろう。

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もう残り少ない日だ。
もう少し冷静になりたいからと母と別れて町を歩いてみた。
町は色々な雑音とかあるだろうに、僕はその一部しか感じていなかった。

「…か……!」
どんっと背中が押された。
竹田だ。

「なんだよ、竹田。」
竹田を睨む。

竹田は思いついたように横下げバッグから最近のかわいらしいメモをとりだす。

『あかる君、火曜日の沈黙になっちゃったの?』
「そうだけど?」
『次の火曜日に死んじゃうの?』
「そうだけど?」
『死ぬの、恐くないの?』
「実感わかないから。」
『ふーん。』

会話が途切れる。
僕はさよならといって竹田と別れた。

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日曜日、父は明日学校いくのが最後だ。
火曜日は一緒に家にいてくれよ、と頼まれた。

父に表情などない、だけどその言葉を一字一字メモに記していく時、彼は泣いていた。

日曜は、ずっと家に居た。
やりたいことをできる範囲でやってみた。
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月曜日、学校へきた。
テストの結果が返ってきた。また1位。
周りは成績表を見せ合いっこする。

とりあえずいろんな意味で犠牲してやったテストの結果が良くてよかった。

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翌日、火曜日。
まだ昨日と同じくらいの沈黙だ。

どうやらまだ少し音が聞こえる。

母と父はいつも通りに接してくれた。
その方が良かった。変に気を使われても困る物だし。

チャイムが鳴った。
母が出ると僕にお客さんだと。

相手は竹田だった。

玄関の外に出ると竹田がメガホンのようなものをを持って立っていた。
「アカルクン、キコエル?」
「あ、ああ。」

こいつは何をしたいんだろう。

「アノネ、コレボイスチェンジャーデ、コエキコエルヨウニシタノ。アカルクンニサイゴニイイタイコトガアッテ。」
「ふーん。」
「サイゴニ、アノネ…、アカ…」
言葉をいうたびに泣く。
どうして泣くんだろう。
悲しいから?
俺が死ぬのが悲しいのか?

「アノネ____________」

 

パーンと周りが静かになる。
なにも音はない。
何も聞こえない。

目の前でなにかいっている。
だけど聞こえない。
そして視界もだんだん闇に染まる。

竹田、泣く暇があったら早く用件すましてくれ。もうない次からは。
気になるじゃないか。

 

the end